いつか家族ガチャから解放される日は来ますか

何年もずっと家族を続けていても、降りかかる困難に慣れることはないし、苦しくなるとわかっていても、同年代の人がキラキラして見えて、普通の家族に憧れることをやめることはできない。

自分の受け止め方次第で前向きな生き方を選んでいくしかないのに、その精神的余裕が自分にはない。

 

一番つらかった時期には、サランラップが顔に貼り付いているような想像が頭にこびりついて離れなかった。

不幸がサランラップみたいに顔に貼り付いてはがれなくなって、いつか息ができなくなってしまうという恐怖にいつも駆られていた。

そんな脅迫的な観念に支配されるなんて、もうすぐ頭がおかしくなるんじゃないか、と怖くもあった。

ずっとこの苦しみを背負い続けて生きていくには、一人では抱えきれないからカウンセリングを受けたいと考えることもある。でも、カウンセリングの相場は信じられないほど高い。役所のカウンセラー無料相談の受付は平日のほとんどの人が働いている時間にしか開放されていない。収入の苦しい人や休みを取る余裕のない人の方がカウンセリングが手の届くところにあってほしい、それが最後の砦になったりするんじゃないかって考えたりするけど、そう簡単にはいかないんだなと思う。

だから、頭がおかしくなる前に、こうやって吐き出したいと思った。

 

私の姉は、唾を吐く。チックの一つだ。チックって、瞬きを強くするとか、体のどこかを少し動かすとか、それくらいしか症状がない人が多いのかな。人によって症状は様々なのだろうか。姉は周りに嫌な思いをさせる症状が多いから、もう何年経っても、いや年数を経るにつれてこちらが疲弊している。何か気に入らないことがあると、「死ね、死ね」と小声で何度も言ったり、白目を剝きながら中指を突き立てたり、親指を下に向けたりする。しかもその指が明らかにこちらを向いているのだ。チックなのか、わざとやっているのかわからない。唾を吐くのは汚なすぎて、もうそろそろ限界にきている。部屋中どこでもおかまいなしに吐きまくる。特に、水場だと吐いていいと安心するのか、思い切り音を立てて吐き散らす。洗った食器に吐きかけるから、唾がかかっていると知らずにコップを使ってしまうと、食欲の失せるような悪臭で気が滅入ってしまう。夏に気温が高くなるともう地獄だ。部屋に充満する唾の匂いが濃くなって、ムッとする。ほぼ年金暮らしの親をしゃぶりつくしながら、昼間はアイドルの動画を見て家に引きこもっている。仕事で疲れて帰ってきた日やゆっくりしたい休みの日には、そんな奴が、「ブ~ッッ」と気持ちよさそうに音を立てて唾を吐き散らしている音や臭いで、動悸がしてくる。見るのが本当に不快だから他の部屋にいても、吐き散らす音からは逃れることはできない。

 親は残りの人生で可哀そうな娘を大切にしたいのか、働かないことに対しても何も言わない。楽しそうにアイドルの話をしたりしている。ああ、いなくなった後も一人で生きていけるようにどうにかしようとはしないんだ、その後は私が一人で背負って生きていくんだなと悟って、何とも言えない孤独感を味わった。この姉がいなかったら、私の人生はどうだったんだろうと、何度でも思う。

 親不孝になるから、生きているうちは絶対に自殺しないけど、親がいなくなった後はわからないとか、色々とほざいている。

 正直、散々甘えて周りを苦しめて生きてきた分、親がいなくなった後は、死ぬほど苦労して野垂れ死なばいいんじゃないかと思ってる。生活保護を受けるようになっても援助はしないと思う。でも、その時の自分はどうなるんだろうと考える。

 自分の収入を削って姉を支えるのも嫌だし、自殺されて、自分がもっと何かすべきだったと、一生後悔の念に苛まれて生きていくのも嫌だ。どう転んでも、一生姉に振り回されて生きていく未来に、時々発狂しそうになる。

 親ガチャが良くなかったとしても、いつかは解放されるけど、兄弟ガチャで外れると、文字通り一生その運が付き纏ってくる。これだけの年月を経て慣れていないんだから、きっとこれからも慣れることなく苦しめられていくんだろうな。

 本当に殺したいと思ったことはないけど、不慮の事故とか、願ってしまうことはもう仕方ない。一度だけ、姉を殺す夢を見たことがある。自分の家ではなかったけどどこかの家で姉以外の家族もいて、私は部屋で姉と二人の時に殺して棺のようなものに入れて隠していた。両親には、二人で二泊三日の旅行に行ってくると嘘をついていた。いなくなったらもっと楽になるものだと思っていたのに、とんでもなかった。部屋に隠れてる間、最初の二日くらいは何ともなかったけど、本当に起きない死体を見て、取り返しのつかないことをしたと、とんでもなく苦しい後悔がみるみる濃くなっていった。そのうち、「戻ってこないね」と話している両親の声が聞こえてきて、苦しくて苦しくてたまらなかった。今まで見た夢の中で、一番嫌な夢だった。起きたときの疲労がすごかったし、夢なのにあの苦しみは今でも自分の中に刻まれている。そんなことを本気で考えたことは一度もないけど、神様が、間違えを犯さないように、やってしまったらどうなるかを味わわせてくれたのかなと、起きてから思った。神様が見させてくれたんだ。

 

 そしてもう一人は祖父。昔の人は自分中心でヤバい人が多いと思うけど、その中でもヤバい方だ思う。

 嫁入りした母を女中のようにこき使った。いつも母は祖父の後にお風呂に入っていたが、たまたま祖父が飲み会か何かで帰りが遅く、母が先にお風呂に入り、ちょうどその間に祖父が仕事から帰ってきてしまった日があった。祖父は父と母を呼び出して正座させると、嫁入りして自分より先に風呂に入るやつがどこにいるかと怒鳴り散らしたらしい。父は、いつも女中のようにこき使って、家のことを何から何までやらせてるんだから、風呂に先に入るぐらいいいだろうとかばったらしい。すると、お前は黙ってろと言って、持っていたコップの酒をバチャッと父に浴びせかけたらしい。父と祖父は昔からずっと仲が悪かったが、その一件以降、さらに悪くなり、今でも母親が間に入って気を遣っている。姉と兄がケンカしていた時には、二人を止めている母親に、お前の育て方が悪いからだと怒鳴って、出て行けと言った。私はその後、兄と一階で外を歩いている人を眺めながら、母親が出ていっていないかどうか見張っていた。

 若い頃に苦労したのか知らないが、馬鹿みたいにケチで、自分にしかお金を使うことができない。6年前に祖母が亡くなった時には、祖母が子や孫に残してくれた遺産を全部譲ってくれないかと言って自分のものにした。孫たちの面倒を見てあまり今まで遊ぶことができなかったから、残りの人生で遊びたいという理由らしい。何もしないで家にいるのに、まだ働いている母に何から何までやらせて、値上げが続くこの時代にたった3万しか家に入れず、自分は400万のインプラントをして、コロナが落ち着いてきた今年こそはクルーズ船で世界旅行をしたいそうだ。付いていって海に沈めたいくらい。

 

 両親は二人とも、自分は二の次で、苦労を惜しまないお人好しみたいな人だから、こういう人は、老後は自分のために幸せに過ごさなきゃいけないと、心から思う。それなのに、唾にまみれた汚い部屋で娘の面倒を見て、ストレスなく長生きする老害に吸い尽くされて、こんなことってあっていいの?

 どれだけ恩返しできるかわからないけど、家のこともやって、少しでも役に立ちたい思いで毎日必死こいて生きてる。でも、時間や稼いだお金を自分に使える花の20代、あの二人がいなければ、私の人生は、両親の人生はどうだったんだろうと、やっぱり考えずにはいられない。

 姉の汚いチックも、祖父の人間性も、すべてを受け入れて笑顔で接して、自分にできる最善のことをするのが、強靭な人として成長していける理想なのはわかってる。その強さがあれば、自分も良い方向に進んでいくし、苦労は多くても魅力的な、良いことを自力で引き寄せられそうな人間になるだろうということも、何となくわかる。でも、汚いものは汚いし、許せないものは許せない。残念ながら、自分にその強さはないんだろうと思う。この苦行から一生解放されずに、不幸が顔に染み付いたような顔して生きていくんだろう。わかっちゃいけないことだけど、やってはいけないことをやってしまう人の気持ちが、少しだけわかってしまう気がする。テレビで見た事件について話をする時は、自分はそれを起こしてしまうような環境に生まれず、遠くから眺めて噂したり批評できるような立場であることを感謝した方がいいよ、とどちらかと言えば噂する側に言ってしまいたくなるくらいだ。外からいくら目を凝らして眺めても、家族ガチャに外れた人の苦しみは、絶対にわからない。